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我が思い出の歌
わたしの思い出の歌。 広川 和子(かずこ)。
◎信州にいた幼い頃。母はわたしがお昼寝をするときもシューベルトの子守唄を歌ってくれた。
シューベルトの子守唄
◎父は農林省の官吏で、祖母から教えられたという古風な『鳩ぽっぽ』を口づさんでいた。
●はとぽっぽ、ぽーっぽぽーっぽと鳴いてあそべ、お寺のやねから下りてこい。
豆をやるからみな食べよ。食べたらすぐに帰らずに、ポーッポポッポと鳴いてあそべ・・
鳩ぽっぽ
◎第二次大戦が始まると、母は従軍看護婦にあこがれてその歌を唱えたり、「空の神兵」が大好きで
歌っていた。
●藍より蒼き、大空に大空に、たちまち開く百千の、真白きバラの花模様、見よ落下傘空を行く、
見よ落下傘空を行く、みよ落下傘、そらーを行く
空の神兵
◎父は京都に長く住み、京都帝大を出ていたので『琵琶湖周航の歌』を愛していた。ほろ酔い気分にな
ると、低いあまり上手でないガラガラ声でうなるのだった。
●われは湖の子 さすらいの、旅にしあれば しみじみと、のぼる狭霧やさざなみの
志賀の都よ いざさらば・・・
琵琶湖周航の歌
◎わたしは、高校まで田舎のさえないイモ娘で、満たされない心で、あこがれたのは滝廉太郎の
『荒城の月』(こうじょうのつき)や 『花』であった。
荒城の月(こうじょうのつき)
花
◎目白の女子大に入って、雑司ヶ谷にある寮に寄宿した。畳敷きの古びた寄宿舎で、掃除、お料理
も当番制でやらされた。古い作法を身に付けた厳格な寮監が、娘たちを完全に支配していた。
◎上級生たちは、朗らかな声ではやりの歌を歌いながら行き来した。「ケ・セラ・セラ!」と。
●『ケ・セラ・セラ』 When I was just a little giral, I asked may mother what will I be?
Will I be pretty?, will I be rich?,This what she say to me, QUE SERA SERA・・・
それはパッとしない現実から輝かしい未来をのぞき見、憧れる歌だった。
ケ・セラ・セラ
◎上級生になると、体育の授業で、社交ダンスのレッスンが始まるようになった。私は背が低いので
2人ずつ組まされても、男役をつとめることにはならず得をした。他の大学のダンスパーティにも
参加するようになり、当時の大流行のジルバやタンゴを踊りぬき、ダンス狂などと云われた。
◎大好きだったロマンティックな『水色のワルツ』は、甘美な想いを胸に響かせた。
●君に会う嬉しさの 胸にふかく 水色のハンカチに ひそめし習わしの・・
水色のワルツ
◎文字通り魅惑された『魅惑のワルツ』(オードリー・ヘップバーンの「昼下がりの情事」から)
など踊りぬいた。
●It was fashination I know・・・
魅惑のワルツ
昼下がりの情事
◎イタリア映画「刑事」でアリダ・ヴァリが歌った主題歌「アモ―レアモ―レアモ―レ、アモレ ミ
オ」は、その熱情と、いたましい絶望の混然とした甘美な曲に感じられた。ふとしたことで殺人を
犯した年若い恋人を、裸足で追って走るクラウディア・カルデナーレの姿は、いまも鮮やかに目に
浮かぶ。
死ぬほど愛して
◎卒業し、上智大学のブラジルセンターに勤務するようになってから、リオ生まれのブラジル人と知
り合った。
結婚後、生まれた二人の息子がまだ幼い頃に、日本は大学紛争の時代に突入し、大学で教鞭をとっ
ていた夫は、自宅の居間とニ階を使って、自宅授業を行うようになった。そのとき、学生たちに評
判がよかったのは、サンバを教えることや、『BANDA』を弾いて皆で歌うことだった。
学生たちは、長期間登校出来なかったので、自ら を元気づけるように、声を張りあげて、
BANDAを歌い、踊った。
A BANDA
◎四十代になってから、サンシャイン60ビルの23階にある結婚相談所のカウンセラーとして、約5
年間勤めた。
ビルの窓の眼下に広がるすばらしい眺望と豪華な調度、花々に囲まれて、クライアントに相手を紹介
し、お見合いやパーティの主催をした。 終日、BGMやステレオ演奏が流れていたが、私が最も好き
だったのは、ロシア民謡「黒い瞳のナタリー」であった。
黒い瞳のナタリー
◎夫が60代で心臓を手術し、引退して故国に戻るのに付いて、私もサンパウロへ移民した。成人し
た2人の息子たちは日本で仕事をし、家庭も持っていた。
◎いま老いて、耳慣れぬ歌や曲には、とまどいを感じるばかりの日々だが、震災復興のために作られ
た「花が咲く」は、もう存在しない未来の希望と、孫もなく残すものとてない私に、美しい幻を造
る気持ちを抱かせる。
たしか、故、安倍首相も、この曲を愛して、みずから習って、ピアノで演奏したほどだったという。
おわり。 2022.09.22
花は咲く
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